嵯峨野の奥地にひっそりと佇む
紅葉の隠れ寺「厭離庵」
嵐山の喧騒を離れ、知る人ぞ知る「散り紅葉」の絶景へ。
『小倉百人一首』ゆかりの地で過ごす、静寂の秋。
京都・嵐山が一年で最も華やぐ紅葉シーズン。渡月橋や天龍寺周辺は多くの観光客で賑わいますが、そこから少し足を延ばした嵯峨野の奥地に、知る人ぞ知る「隠れ寺」があるのをご存知でしょうか?
その名は「厭離庵(えんりあん)」。
普段は堅く門を閉ざし、秋の紅葉シーズン(11月〜12月上旬)だけ特別に公開されるこの場所は、あの『小倉百人一首』が編纂された場所としても知られています。
今回は、真っ赤な「散り紅葉」の絶景と、歴史ロマンあふれる厭離庵の魅力をご紹介します。
1. はじめに:嵯峨野の奥にひっそりと佇む「厭離庵」とは?
嵯峨野の静寂な住宅街の中に、ひっそりと佇む厭離庵。賑やかな嵐山の中心部とは打って変わり、ここには古都本来の静けさが流れています。
「厭離(えんり)」の意味
寺名にある「厭離(えんり)」とは、「穢れた世の中を嫌い、離れる(厭離穢土)」という意味。その名の通り、現世の喧騒を離れ、心を静めて自分と向き合うための場所として、古くから愛されてきました。
通常は非公開ですが、紅葉が美しく色づく晩秋の時期だけ、その門が開かれます。「今しか見られない」という特別感もまた、旅人の心を惹きつける理由の一つです。
2. 歴史ロマン:百人一首が生まれた「小倉山荘」の跡地
厭離庵は単なる美しいお寺ではありません。文学好き、歴史好きにはたまらない「聖地」でもあります。
藤原定家と厭離庵の関係
鎌倉時代、歌人・藤原定家(ふじわらのていか)は、この小倉山の麓に山荘を構えました。定家はこの山荘で、宇都宮頼綱に依頼され、障子に貼るための色紙を選びました。これが、後に日本の古典文学の金字塔となる『小倉百人一首』の起源だと言われています。
つまり、私たちが知る百人一首は、まさにこの場所で生まれたのです。
境内にある「時雨亭(しぐれてい)」の跡
境内には、定家の山荘の一部であった「時雨亭」の跡とされる古井戸や礎石が残されています。かつて定家がここで筆を執り、素晴らしい歌の数々を選定していた——。そう想像しながら境内を歩くと、ただの紅葉狩りとは違った深い感慨が湧いてきます。
歴代の荒廃と復興を支えた冷泉家の存在
実はこの場所、定家の死後は一度荒廃してしまいました。しかし江戸時代中期、定家の子孫である冷泉家(れいぜいけ)と、臨済宗の白隠禅師ゆかりの霊源禅師によって再興され、現在の「厭離庵」となりました。幾多の時を超えて守られてきた歴史の重みが、この小さな庵には詰まっています。
3. 絶景ポイント:境内を真っ赤に染める「散り紅葉」
厭離庵を訪れる多くの人の目的、それが「散り紅葉(ちりもみじ)」です。
見頃は晩秋!足元を埋め尽くす真紅の絨毯
一般的な紅葉狩りは木を見上げますが、厭離庵では「足元」にもご注目ください。
紅葉のピークを少し過ぎた晩秋(例年11月下旬〜12月上旬頃)、散ったカエデの葉が庭一面を埋め尽くし、まるで真紅の絨毯を敷いたような光景が現れます。
苔の緑と紅葉の赤が織りなすコントラスト
庭園のベースとなっているのは、美しい緑色の「苔」です。雨上がりや朝露に濡れた苔の鮮やかな緑と、その上に降り積もる燃えるような赤。この「赤と緑」の鮮烈なコントラストは、言葉を失うほどの美しさです。
📷 おすすめの撮影アングルとマナー
- ローアングルで: しゃがんで低い位置からカメラを構えると、奥行きのある「赤い絨毯」がきれいに撮れます。
- マナー: 苔は非常に繊細です。撮影に夢中になって、柵を越えたり苔を踏んだりしないよう十分に注意しましょう。
4. 厭離庵の拝観情報と注意点【202X年版】
厭離庵は、訪問のハードルが少し高い場所でもあります。事前にしっかり情報を確認しておきましょう。
- 公開期間
- 例年 11月1日 〜 12月上旬
※紅葉の状況により終了時期が前後することがあります。公式サイト等で最新情報をご確認ください。 - 拝観時間
- 9:00 〜 16:00(受付終了)
- 拝観料
- 500円(※変更の可能性あり)
- 御朱印
- 書き置きのものが用意されていることが多いです。百人一首ゆかりの地ならではの記念になります。
- アクセス
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入り口が分かりにくいので注意!
JR「嵯峨嵐山駅」または京福「嵐山駅」から徒歩約15〜20分。
清凉寺(嵯峨釈迦堂)の西側、二尊院へ向かう道の途中に、小さな看板が出ています。そこから細い路地を奥へ奥へと進んだ突き当たりに入り口があります。「本当にここ?」と思うような細道ですが、勇気を出して進んでください。
5. 合わせて巡りたい!嵯峨野のおすすめ散策コース
厭離庵は小さなお寺なので、拝観所要時間は15〜30分程度です。周辺の名刹と合わせて巡るのがおすすめです。
- 二尊院(徒歩約5分): 「紅葉の馬場」と呼ばれる広い参道が圧巻。スケールの大きな紅葉が楽しめます。
- 常寂光寺(徒歩約10分): 塀のない開放的な寺院。高台からは嵯峨野の街並みを一望でき、紅葉越しの絶景が広がります。
- 祇王寺(徒歩約10分): 『平家物語』ゆかりの悲恋の寺。ここの苔庭も素晴らしく、厭離庵とはまた違った「静寂」があります。
【おすすめモデルルート】
6. まとめ:喧騒を離れて「厭離庵」で心を整える旅を
百人一首の歌人たちが愛した小倉山の麓、厭離庵。
ここにあるのは、派手なライトアップやイベントではなく、数百年前から変わらない「自然の色」と「静寂」だけです。
真紅に染まった庭を眺めながら、かつてここで歌を詠んだ古人に思いを馳せる——。
そんな贅沢で大人な秋の時間を、ぜひ厭離庵で過ごしてみてはいかがでしょうか。
晩秋の嵯峨野は冷え込みます。また、お寺の境内は石畳や土の道が多いので、歩きやすい靴と暖かい服装でお出かけください。



